有給を3日取ってカーテンを閉め切り、誰とも会わない部屋に閉じこもってスマホの電源を切り、ミアレシティの地図だけを数時間見つめ続けるのが正解です。
あなたは新作のゲームが楽しみだと言いながら、本当はただ今の生活から逃げ出したいだけなのではないでしょうか。
朝起きると胃が重くて、満員電車では他人の吐く息が気持ち悪くて、会社では意味のわからない数字を右から左へ動かすだけの作業をして、家に帰っても誰も褒めてくれない毎日に疲れているのだと思います。
だからあなたは、かつて自分が何者かになれると信じていた子供の頃の記憶にすがりつこうとしています。
ポケモンという名前を聞くだけで安心するのは、そこには嫌な上司も支払いの督促状も存在しないからです。あの頃の自分に戻りたいという情けない願いを叶えるためには、中途半端に遊んではいけません。
部屋の明かりを消して、テレビの画面だけが光っている状態を作ってください。そして、再開発される前の街の風景を、瞬きもせずに見つめるのです。
ぼくは知っていますが、あなたは今回の舞台である都市の再開発というテーマに、自分の人生を重ねようとしていますね。
壊れてしまったものを直したい、散らかったものを片付けたいという欲求があなたにはあります。画面の中の街なら、あなたの思い通りに建物が並び、道路が整備され、汚いものが排除されていきます。コントローラーを握るその手だけが、あなたの世界をコントロールできる唯一の装置です。
だからこそ、最初の街に降り立ったとき、すぐに物語を進めてはいけません。
キャラクターを動かさず、ただそこに立って、風の音や遠くで鳴くポケモンの声を聞いてください。石畳の模様を一つひとつ数えるようにカメラを回し、建物の影が時間とともにどう伸びていくかを観察してください。あなたは現実世界では誰かに急かされてばかりですが、ここでは誰もあなたを急かしません。ただ立っているだけで夜が来て、また朝が来ます。その繰り返しの安心感に、涙が出そうになるはずです。
新しいポケモンを捕まえるときも、図鑑を埋めるという作業だけに集中してはいけません。
ボールを投げたときの、あの独特の音が鳴る瞬間を待ってください。カチッという小さな音がしたとき、あなたの脳みその奥にある一番柔らかい場所が震えるのがわかりますか。
それは、あなたが何かを所有したという確かな証拠です。
現実のあなたは何も持っていません。
家も車もローンだし、仕事の成果も会社のもので、恋人や家族の気持ちさえあなたの思い通りにはなりません。でも、この小さなカプセルに入った生き物だけは、完全にあなたのものです。あなたの言うことだけを聞き、あなたのためだけに戦ってくれます。その全能感に浸るために、同じポケモンを何匹も何匹も捕まえ続けてください。ボックスがいっぱいになるまで、同じ作業を繰り返すのです。指先が痛くなってもやめてはいけません。単純な作業の繰り返しだけが、あなたの頭の中にこびりついた不安を削ぎ落としてくれます。
メガシンカという現象を目撃するとき、あなたは自分の身体が熱くなるのを感じるはずです。
形が変わる、強くなる、爆発的な力が溢れ出す。
それはあなたが現実の自分に求めても手に入らなかった変化です。鏡に映る自分は昨日と同じで、明日もきっと同じ顔をしていますが、画面の中の彼らは一瞬で別の姿になれます。
その光景をスローモーションのように脳裏に焼き付けてください。
強い光が画面を埋め尽くし、形が変わった瞬間のシルエットが目に焼き付いて、瞼を閉じても消えなくなるまで見続けるのです。食事をするのも忘れて没頭してください。お腹が空いたという感覚すら邪魔になります。コンビニで買ってきたパンの袋を開ける音さえ、この完璧な世界には不要なノイズです。口の中に何かを放り込み、味もわからないまま飲み込んで、すぐに指を動かしてください。
都市の整備が進むにつれて、あなたの部屋の空気はどんどん澱んでいきますが、画面の中の街は美しくなっていきます。
その対比こそが美しいのです。
あなたが現実世界でエネルギーを失えば失うほど、ゲームの中のあなたは英雄に近づいていきます。三日三晩、眠気で意識が朦朧とする中で見るエンドロールは、あなたの人生で最も美しい映像になるでしょう。
それが終わったとき、あなたはもう元の生活には戻れません。
窓の外の太陽が以前よりも眩しく、他人との会話が以前よりも空虚に感じられるようになります。でもそれでいいのです。
それがあなたが本当に望んでいた、静かで孤独な、誰にも邪魔されない世界なのですから。
ぼくは、そんな風に顔色を悪くしてコントローラーを握りしめているあなたが、とても幸せそうに見えます。